令和5年度 第1回 高等学校中国語教育推進研修会 実施報告書
令和5年11月28日
令和5年度 第1回 高等学校中国語教育推進研修会 実施報告書
報告人:水口一久
日時:令和5年11月24日(金)
場所:横浜市立みなと総合高等学校
内容:
公開授業
①中国語会話Ⅲ 温 悠 (横浜市立みなと総合高校)【3年生】女子4名
②中国語会話Ⅰ 温 悠 (横浜市立みなと総合高校)【1年生】女子11名・男子1名
③中国語会話Ⅰ 温 悠 (横浜市立みなと総合高校)【2•3年生】女子16名・男子3名
研究協議
境 一三 (獨協大学) 金 景彩 (慶應義塾大学) 渡辺 大輔 (上海大学)
(前・後半) 胡 興智 (上智大学) 城間 真理子 (沖縄県立浦添商業高校) 山下 誠 (神奈川県立厚木商業高校) 安武 正浩 (愛知工業大学名電高校) 柳 素子 (大阪府門真なみはや高校) 若森 幸子 (埼玉県立戸田翔陽高校) 廣瀬 瞳 (上智大学博士後期課程) 水口 景子 (国際文化フォーラム) 髙石 美穂 (東京都立杉並総合高校) 温 悠 (横浜市立みなと総合高校) 水口一久 (岡山商科大学附属高校)15名
生徒交流
横浜市立みなと総合高校【3年生】3名 参加教員 10名
報告:
○ 公開授業
授業は3教室とも同じ単元の授業であった。各クラス、生徒数や雰囲気が違う中でいかに授業を進めるか参考になった。どのクラスも授業は前向きに受けており、よくできるという印象であった。単元のテーマは「横浜中華街へ行こう」であり、最終目的はパフォーマンス課題「横浜中華街へ行きその結果や様子をレポートにまとめ、発表する。」であった。10月始めから準備を開始し、本時は、最後の発表であった。これまでの授業で中華街の文化を知り、会話文を作成するための、練習プリントを配布し、4回の授業で翻訳作業を行い、知識を入れた状態で、実際に中国語で買い物をするための会話文を作成した。その後、それに基づいて会話練習を行った。11月の上旬、グループで日程を合わせて中華街に出かけ、様々なお店で食事や買い物を行った。その様子をレポートにまとめ、生徒が自ら中国語に翻訳し、今回の発表となった。
①の授業は女子が4人の少人数の授業であった。4人は仲が良く、終始グループ活動のような感覚で受けていた。授業開始と同時に、基礎の有気音から教科書にあせてテンポ良く発音練習が行われた。教科書本文は、生徒のみでの発音であった。その後、本時のパフォーマンス課題のレポート発表が順次行われた。予め作成したレポートと、ChromBookで作成したスライドを映し出しながらの発表となった。少人数で発表の時間が短かったため、発表終了後の時間に、教科書の練習問題を解いた。中日翻訳であり、既習の内容を基に自分たちで行っていた。その際も協力して作業にあたり、解答する際も4人が一斉に発音をして答えていた。
②の授業も①同様にパフォーマンス課題が中心となった。1年生であるため、基礎の母音から発音練習を行い、導入のテンポが良く、その後のパフォーマンス課題にスムーズに繋げていた。①と異なる点は、発表前の時間にレポート課題とChromBookのスライド、ルーブリックを机上に出して、クラス全体に共有したところであった。発表後には発表ルーブリックで振り返りを行った。
③の授業も、①②と同じ展開であった。また、①②では、一度発表のリハーサルを行っているが、このクラスは1回目の発表であったため、発表練習の時間を長く取っていた。また、在県(中国にルーツがある)生徒が4名いたため、“小老師”として各グループに指導役の担当とし、日本人に対して発音指導を行っていた。人数が多いことから、時間がギリギリになったが、②と同様に最後ルーブリックで自己評価を行った。
○ 研究協議
まず始めに授業者から議論のテーマとして、文科省が掲げる「学力の三要素」の1項目「思考力・判断力・表現力」(以下、「思・判・表」)を生徒に身につけさせるためにと前置きがあり、次の2つ点を中心に話し合いを行いたいと提案があった。1つがパフォーマンス課題における「思・判・表」を意識したルーブリックの作成と評価について。もう1つが、生徒に「思・判・表」を身につけさせるための、授業の組み立て方や生徒への声掛け方法についてであった。
以下議論のテーマでまとめて紹介する。【授は授業者の意見である。】
①の授業について、4人の関係性
4人の関係性がすごく良かったことから、まず生徒についての質問があった。
授業者から生徒の進路は、専門学校進学が2名、中国語による進学が2名(神田外語大学・神奈川大学)であった。検定試験は中検であれば4級に受かる実力はあるが、本人たちは自信が無いのか、これまで受験してこなかった。これまでの卒業生は3年間で3級は受かるレベルである。これまで課題発表型のオンライン交流を5回ほど行っていたこともあり、テーマごとに課題を作成して発表することに慣れている。この4人は結束が強く、お互いに学習し合っている。今回4人が固まってやっているので、教員がどのように導いていけばいいかについても伺いたい。
参加教員から
・「お互い得意分野を理解している、という話を聞いた。文法が得意な子、発音が得意な子など、4人が苦手を補うことで参加に対する意欲はあったり、一人一人負担が軽減されたりしているのはいいことだ。しかし、その言葉に対してその子の責任だという体験をさせた方がいい。だから、一人になった時の自信のなさにつながっているのではないか。」
・「恐らく、検定試験を受けないのは、4人1役になっているから、1人では自信がなくて検定試験も受けないのかなと感じた。」
・「グループでやることに対しては、定着に大きく貢献はしているけれど、少し相互依存しすぎでいる感じがする。だから、個人でやる課題と共同でする課題を分けた方がいい。」
・「練習問題を答える際、学生が「せーの」で一緒に答えを出した。4人で1個しか答えが出ないのは、別の表現がるので、もったいないと感じる。しかし授業者が、違う言い回しも補っていたので、その部分は良かった、あまりみない光景ではあるけれど、、、。」
・「先生と生徒の距離が近いと感じた。授業見学に慣れているように思う。教員がいても、物おじせず話しているのは、オンライン講座のおかげかもしれない。意欲もあっていい。」
・「個として全体をカバーするという時間が重要ではないか。助け合うのも大事ではあるが、ソーシャルフォームの異なりがあっても良い」授「言語に対して、責任を持つ部分から、あの4人は逃げているのは事実、発表に関しては、事前に先生方が来ると言っていたので、緊張していた。4人に関してはグループワークをあえてする必要がなく、指導を変えていかなければならないと感じた。」
「思・判・表」を意識したルーブリックの作成と評価
授業者から問題提起をいただいた。
パフォーマンス課題に向けて一連の授業の流れを考える前に、ルーブリックを考えた。4項目はは「中華街の歴史や文化を理解できた。」「場面を想定して中国語で会話文を作れる。」「中華街のお店で中国語を話せる」「中華街で粘り強くコミュニケーションできた。」であった。10月始めからの課題の評価として生徒に配布した。また、発表に関しても、4項目「中国語の発音」「中国語の作文」「発表態度」「声の大きさ」で評価をルーブリックを作成している。この項目以外にも、効果的に評価できる項目あれば、教師の視点として、意見を伺いたい。
参加教員から
・「「思・判・表」の観点から、リハーサルをどのようにしていたのか?」
授「リハーサルに関しては、あのままの形で行なった。文章が間違っていれば、書き直すために、1回練習で発表する機会を設けた。」
・「スライドの中に入れる言語は指定していたのかどうかは「思・判・表」では重要なポイントである。」
・「お店を決めるプロセスも面白いと思う。どこから情報を拾ってお店を決定するのか。どういう基準で決めているのか、教員側で見えている部分があれば教えてほしい。」
・「ルーブリックの紙はいつ配布しているのか?先生が作成したのか?」
授「先週(発表の前の週)に配布している。配布時期も最初の方がいいのか、後からが良いのか、前回のパフォーマンス課題は、最初に配布していた。今回、文化の理解がルーブリックに入っていたため、発表が文化、歴史に偏るのを避けた。」
・「学習を促すという観点で配布するのが、一般的である。何を意識して授業に取り組むかの指針になる。意識づけが固まってしまうという、授業者の考えもわかる。」
授「発音が苦手なクラスなので、文化、歴史の知識まで与えると、課題過多になるのではという危惧があった。今回の意図としては「思・判・表」を見るということだったので、「どのように表現できたか」ということを見ることを1番に考えた方が良かった。」
・「今回は発表に対してのルーブリックに発音項目が入っているから、そうではなく、発表ができたというところに主眼を置いてルーブリックを作成した方が良かった。それこそ課題過多になっていないか。」
・「思・判・表」をルーブリックで評価するときは、「表現力」の部分の評価がしやすくて、一般的には偏ってしまう。「思考力・判断力」の評価はプロセスの部分になるので、そこをどう見える化するかを深掘りしたらいい。」
・「思・判・表」は「表現」するまでのプロセスであり、「知識・技能」を「思考力を使ってどう表現するか判断」するかだと捉えているので、全てを中国語でやるのは難しいと。」
・「文化の部分は、「知識・技能」にも、「思・判・表」にも「学びに向かう力」にも入れられる。「中華街は何年にできた。」は知識を問う問題。温さんは「理解を深めようとしている姿勢をみたい」というのは振り返りシートで見て取れる。
授「その辺りを整理してもらえると助かる。」
・「発表した内容が丸々テンプレートでないのであれば、1、2個オリジナルの文章が入っている時点で、理解を深めようとしたのは見て取れる。」
・「パフォーマンス課題の成果のみで、プロセスである「思・判」を評価するのは難しいというけれど、作文に中国文化を理解したという文章を組み込むことはできる。その文章をもってプロセスを評価することは可能となる。そういう余地がある。」
・「振り返りシートの中でこの単元を通して何か気付きはありました。と聞いて、プロセスを問うこともできる。それを書ければ「主体的に学習に取り組む態度」の部分は問うことができる。」
・「力のある生徒だから、少し日本との違いを書くことができれば、文化的な要素を入れ込むことができ、「思・判・表」の評価もできる。」
・「身の丈以上のことをせず、生徒の力に合わせれば良い。この議論を元に整理してほしい。」
「思・判・表」を意識した、授業の組み立てや生徒への声掛け
授業者から、今回の授業についての説明と教科書についての話しがあった。
教科書は『中国語のススメ』は文法の解説が豊富に掲載されているため、生徒の作文に関しての能力が上がったと感じている反面、発音の弱さを指摘している。今回パフォーマンス課題については②の1年生が行う授業を、2、3年生でも行ったという流れである。1年生については丁寧に授業の中で1から指導するが、3年生に関しては、活動内容を提示するだけで自ら率先して課題をこなす。今回は授業を行うにあたって、教科書の内容をしっかりと復習させることに重点を置いた。最初はお店が決まっていないので、お店を決めるためのアンケートプリントを用意して、考えさせた。さらに、教科書に載っている、買い物編の本文を並べて翻訳させることも行なった。以上を踏まえて、質問と答えの作文をさせた。最後にお店での会話を想定して会話文を作り、合計4回で、台本の作成を行なった。その後1度発表を行い、本文の修正して、今回の発表にいたっている。
参加教員から
・「ネイティブの先生なので、もっと中国語で話してあげたら、聞く力がつくと思った。」
・「発音がすごく上手い生徒が多い。先生がかなり長い文章を読んでも生徒はしっかりとその後について発音ができていた。」
・「スライドは評価に含めますか?」
授「スライドは作っても、作らなくてもいいようにしているので、今回は評価には含んでいない。スライドの言語の指定はしていない。今回は発表内容を説明文であったため、写真を貼り付けることだけは指示した。言葉を入れたのは生徒自信の自己判断。」
・「今回は評価に含んでいないが、スライドの見せ方を工夫した生徒に対しては、評価をすることができる。」
・「会話文では相手との関係性を考えないといけないが、説明文なので、プレゼンのように、自分で自分の思ったことを伝えるのも良かったのではないか。」
・「3年生はレベルが高いので、発表に対して短文で追加質問もできるのではないか?生徒が生徒に質問できるし、教員が生徒に対して質問することもできて、もう少しやりとりが見たかった。」
・「シンプルな質問でも、ネイティブ特有の聞き方があるので、質問を言い換えても、生徒が対応できるかを、パフォーマンス課題の発表の中でもできる。本人の発表についての質問なので、幅が拡張されていくのではないかと感じた。」
・「先生が途中間違ったことに対して、すぐに「ごめんね」と言えるのは、生徒も「間違って良いんだ」と思えるので、とても良いこと。先生と生徒の距離が近いのもこういうことが原因だと思う。」
○ 生徒交流
3名の生徒と、研修会参加者10名で交流会を行った。まず初めに、交流参加者から教えている言語(ほとんどが中国語)で自己紹介が行われた。クイズ形式で自己紹介の内容を生徒が当てる活動を行なった。既習の単語はすらすら正解をしていたが、特に地名などは聞き取るのに苦労していた。次に、生徒から中国語で自己紹介が行われ、生徒から参加教員に対して中国語で質問がされた。参加者の中には、ドイツ語、スペイン語、韓国語の教員がいたため、生徒が中国語を教えていない教員に対して、中国での挨拶や自己紹介を教える活動となった。中国語の教員は生徒の補助役になり、サポートを行なった。教えられた3名の教員はその後、教えられた挨拶を発表した。